REDDY 多様性の経済学 Research on Economy, Disability and DiversitY

エッセイ

2024年3月20日

都市のアクセシビリティ06:パリとロンドン

丹羽太一

車いすでパリとロンドンの交通機関を利用する 2:車いすでロンドンに行く

ロンドンの空港から市内へ

5年前にロンドンに来た際は、ヒースロー空港から市内へ出る鉄道のルートは2つ、追加料金がかかるヒースロー・エクスプレスでパディントン直通か、時間がかかる昔ながらの地下鉄ピカデリー・ラインかであったが、2022年にエリザベス・ラインが新たに正式開通し、断然市内へのアクセスが便利になった。エクスプレスと並行のヒースロー・コネクトという線を市内中心部に延伸して東につながるようになったような路線だ。ヒースロー・エクスプレス、前回華々しく看板でてたけど、今回は仮設チケットブースも寂しい感じで、使う人いるのかと心配になる。
エリザベス・ラインは市内中心ゾーン1を東西に横断し、ゾーン内で5つの駅に止まる。この5つはいずれも既存の地下鉄の駅とステップフリーでつながって、車いすでも乗り換え可能(車両を間違えなければ基本段差もない)。ゾーン1内の車いすでも利用できる駅はやはり限られているが、移動はかなりしやすくなった。ゾーン1にはウォータールー・アンド・シティ・ラインとノーザン・ラインのバタシー・パワー・ステーション行きの路線、テムズリンクというナショナル・レールの路線も新たに通っている。

「女王陛下の新路線」が変えるロンドンの商業地図


空港の駅は車両とフォームのギャップがない

途中、ギャップがある駅は駅員がスロープを架ける


到着した駅も新しい

エレベーターの前にベンチとヘルプボタン

全面フォームドア

車いすスペースのある車両の乗車位置がフォームに表示されている。


フォームと車両の間にほとんどギャップがない


エレベーターは止まらず動いていた

エスカレーターの横に斜めのエレベーター

ロンドンのタクシー

タクシーは5年前も基本すべて車いすで利用可能。スロープの出し入れが引き出し式に替わっているようで、前の開き式のほうが楽そうではあった。
雨など、非常の際にはタクシーが気楽に(料金は高いが)利用できるので、ロンドンの移動で心配することはあまりない。



こちらは折りたたみスロープ

ロンドンのバス

ロンドンは地下鉄が非常に便利な交通手段であるが、中心部は古い路線が多く、車いすで利用できる駅は限られている。車いすでの細かな移動はバスがメインになる。こちらは5年前もスロープ完備、車いすスペースも必ずある。
バス路線は膨大で、大体いきたいところに行く路線が見つかるが、複雑すぎてわかりにくかった。今はスマフォアプリで行き先路線の番号を調べると、乗るバス停の位置も地図で確認できるので迷わなくなった。


乗る時は手を上げるなど合図するとスロープが自動で出てくる

チェンジング・プレイス —大きな個室トイレ

チェンジング・プレイスは、1人か2人の介助者がついているような重度の障害のある人たちのためのトイレです。
高さ調節可能な大人サイズの更衣ベッドと天井ホイストシステムが設置され、移動は着替えに介助が必要な人が使える十分な広さがあり、多くはシャワーも付いています。
2020年に改正されたイギリスのビルディング・レギュレーションには、主に新築の建物と大規模な改修が行われる建物の両方において、特定のタイプの(集会、レクリエーション、娯楽の目的で使用される)ものにチェンジング・プレイスを設置する規定を追加しています。
ナショナル・レールのターミナルであるユーストン駅にチェンジング・プレイスがありました。


ユーストン駅

大きなターミナル駅です

障害のある人が電車を利用する際にはアシスタントをつけられる


一般のトイレに隣接してチェンジング・プレイスがあります


工業規格では広さ3m×4m以上

行ってみると入口にカギがかかっていて入れない。仕方なく一般トイレに戻り、こちらの奥にでも車いすトイレがないかと覗いてみたところ、作業着のおじさんが出てきて「こっちじゃない」と言ってポケットからじゃらじゃらと鍵束を出して先ほどのチェンジング・プレイスを開けてくれた。
出てくる時には、両手にクラッチの少年が待ち構えていて入れ替わりで入っていった。

オーバーグラウンドで郊外へ

ロンドンの地下鉄はアンダーグラウンドというが、市内で地上を走る路線はオーバーグラウンドという。
中心部の地下鉄駅から郊外の駅で乗り換えてオーバーグラウンドを利用、新興の再開発住宅地へ。


いくつかの路線が入っていて駅が複雑になるとエレベーター移動も多くなる


エレベーター利用の案内も複雑

この郊外の乗換駅ではフォームとフォームの間を地下通路でつないでいて、それぞれのフォームには長いスロープで上がるようになっている。


階段でなく、みなスロープで上がる


パーキング・プレイスという待機場所が指定されている


電車とフォームのギャップが大きい

新しい駅はギャップがほとんどない

車両には車いすスペースがあります

待合場所も新しい

小さな駅でも障害者の乗降のためにアシスタントが待機中

車いすで改札を通ると、待機中の駅の人が必ず何か必要でないかと声をかけてくれる。


頼むとアシスタントが乗り場まで一緒に来てスロープも設置してくれる

地下鉄の車いすマーク車両

市内の地下鉄のステップフリーの駅は、フォームがそこだけかさ上げされていて車両とのギャップをなくしています。


ベビーカーも乗り降りしやすい

車両とフォームの隙間は少しある

車両の車いすスペース

フォームの車いす乗り場サイン

DLR ドックランズ・ライト・レイルウェイ

2012年のロンドン・オリンピック・パラリンピックを機に一気に再開発が進んだロンドン東部は、もともと80年代のドックランズという地域の再開発時からドックランズ・ライト・レイルウェイDLRという鉄道路線がつくられてきた。DLRの駅は改札がなく、タッチ式のカードパスOyster(東京でいうスイカ・パスモのようなもの)か、今はコンタクトレスのクレジットカード、スマフォで駅のカードリーダーにタッチして乗降する。新しい路線なのですべてステップフリー。


DLRの駅の入り口

車両の車いすスペース

車両とフォームのギャップはない

テムズリンク

今回テムズリンクの鉄道は車いすで利用していないが、写真だけ。


市内の駅は車両とフォームのギャップは少ない

隙間は大きい

車いす車両はあるけれどフォームとのギャップが大きい駅も

車内に車いすトイレが

空港へ


空港の地下鉄駅からターミナルへのエレベーター


空港のアシスタンス・センター

何カ所かある

アシスタンス・センターが広いです

5年前はスペシャル・アシスタンスと案内されていたが、アシスタンスだけになっているのは、もっと幅広く利用者を受け入れるためでしょうか。


こんなアシスタンスもあります

ロンドンは2012年のオリンピック・パラリンピックを経て明らかにバリアフリー化に勢いがついた。前述のパリと比べると、移動の保証はかなり定着している印象がある。パリは2024年を経て、さてどれほど変わっていくでしょう。

2022年10月5日

マイノリティだと思っていたらマジョリティだった件

エッセイ

書籍『 マイノリティだと思っていたらマジョリティだった件

マイノリティだと思っていたらマジョリティだった件 書影

〈編著〉松井彰彦・塔島ひろみ
〈著者〉小林エリコ/西倉実季/吉野靫/加納土/ナガノハル/村山美和/田中恵美子/小川てつオ/丹羽太一/アベベ・サレシラシェ・アマレ/石川浩司/前川直哉

兄の性暴力で子ども時代を失った人、突然に難病に襲われ死の淵を見た人、アングラミュージシャンの夫と離婚しシングルマザーとなった人、トランスジェンダーゆえに説明し続けなければならない人、精神障害のある母親に育てられた人、幼年時代に親と離れて施設で暮らした身体障害のある人、顔に生まれつき変形がある人、元たまの人、テント村で暮らす人……。「フツウから外れた」とされる人々がつづるライフストーリー14編を収載。社会の不平等や偏見、家族のトラブルや無理解などに悩み、抗い、時にやりすごして今、それぞれ何を思うのか――。

 発行:ヘウレーカ
 価格 1,800円+税
 ISBN978-4-909753-14-4

詳細は ヘウレーカのページへ

2021年10月11日

特別寄稿

特集エッセイ

2つの東京パラリンピック―それらから見えてくること― 法政大学名誉教授 松井亮輔

2021年8月4日

コロナ弱者:わたしが見たコロナ

特集エッセイ

新型コロナと空想科学  大関智也

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エッセイページについて

塔島ひろみ

〈エッセイ 著者リスト〉

〈エッセイ目次〉

特別寄稿

特別寄稿

松井亮輔

障害と多様性

言語の多様性

 森壮也

四半世紀にわたるICN大会参加の歴史と次世代への襷

 栗原房江

保健師助産師看護師法における相対的欠格事由と障害をもつ看護職(連載終了)

 栗原房江

「障害」について考えていること

 加福秀哉

ムジュンと生活と私

 村山美和

障がいあるからだと私(連載終了)

 村山美和

ひょっとこ爺さん徒然の記(連載終了)

曽根原純

我が家の現代版「生類憐みの令」

 土屋健

難病と私(連載終了)

 大関智也

障害当事者と学校

 冨田佳樹

私たちが救護施設に出会うまで

 小林エリコ

地獄とのつきあい方

 小林エリコ

1万年生きたこども〜統合失調症の母を持って〜(連載終了)

ナガノハル

発達障害とわたし

Pafupafu Flower analchang

自分について語る

 にじいろでGO!の仲間

Close Dialogue: 本人と当事者の対話

 小林博

ジェンダー / フェミニズム

生活するトランスジェンダー (連載終了)

吉野靫

フェミニズムとディスアビリティの交差点

飯野由里子

ジェンダーとセクシュアリティの交差点から(連載終了)

 前川直哉

障害と経済

経済余話

 松井彰彦

日本の障害者雇用(施策)と水増し問題経済学エッセイ

 長江亮

障害と社会

障害と社会(連載終了)

 長瀬修

介助・介護の時間 (連載終了)

 瀬山紀子

障害者の「自立生活」から私が学んだこと・考えたこと(連載終了)

 田中恵美子

介護施設の現場から(連載終了)

 三本義治

バタバタ公園バタフライ

 小川てつオ

続・酒田から

 斎藤典雄

酒田から

 斎藤典雄

沈没家族での記憶と記録(連載終了)

 加納土

十人十色

村上愛

ごみの匂い

 塔島ひろみ

下町に咲くエチオピアの「アデイアベバ」

アデイアベバ・エチオピア協会

~ NPO法人アデイアベバ・エチオピア協会理事アベベ・サレシラシェ・アマレさんのお話~

障害と都市

都市のアクセシビリティ

丹羽太一

ライフタイムで住宅を考える(連載終了)

 丹羽菜生

障害とコロナ

コロナ弱者:わたしが見たコロナ

丹羽太一

新型コロナと空想科学

 大関智也

各エッセイは筆者個人の意見であり、REDDYの見解とは必ずしも一致しません