俺の田舎は緑の深い場所だった。実家は農業を営んでおり、大根や人参、ゴボウや長芋、米などを作っていた。大根の収穫の時期は、朝4時に起きて家族全員で畑に出る。農家の子供は立派な労働力だった。
小学校まで片道30分かかる。兄と一緒に長い道のりを登校した。子供の数が少ないので、小学校と中学校が一緒になっていて、全学年合わせても百数十名にしかならない。学校は楽しかったが、家に帰ると遊び相手が家族しかいないので、兄と年の離れた弟と一緒にメンコをして遊んだ。
畑では親父とお袋と祖母が仕事に精を出していた。祖父は居間で寝っ転がってテレビを見ている。学校の先生と町会議員をやっているので、家族は祖父に頭が上がらない。
「あんたたち、ちょっとお使い行ってきて」
畑から帰ってきたお袋が、財布を渡してお使いを頼んできた。
「お味噌を切らしちゃってね。ついでに醤油も買ってきて。あと、好きなお菓子、一個だけなら買っていいよ」
お菓子が買えるのはいいが、一番近いお店まで、歩いて30分はかかる。
「兄ちゃん、一緒に行こう」
「仕方ねえなあ」
まだ小さい弟は家に置いていき、兄と田舎道を歩く。聞こえてくるのはカラスとカエルの鳴き声くらいだ。あぜ道の雑草をむしりながら長く伸びる二人の影を見た。
「あ~あ、こんな田舎いやだ。俺、大人になったら絶対に東京出る」
兄ちゃんが空を見ながらつぶやいた。
「俺もこんな田舎いやだ! ゲーセン行ってみたい!」
「お前がゲーセン行ったら、あっという間に金が無くなりそうだ」
兄ちゃんと二人でどつき合いながら長い道のりを歩いた。
1977年生まれ。茨城県出身。短大を卒業後、エロ漫画雑誌の編集に携わるも自殺を図り退職。
その後、精神障害者手帳を取得。その後、生活保護を受給し、その経験を『この地獄を生きるのだ』(イースト・プレス2017)にて出版。各メディアで話題になる。
その後の作品には『生きながら十代に葬られ』(イースト・プレス2019)、『わたしはなにも悪くない』(晶文社2019)、『家族、捨ててもいいですか?』(大和書房2020)、『私がフェミニズムを知らなかった頃』(晶文社2021)『私たち、まだ人生を1回も生き切っていないのに』(幻冬舎2021)がある。
→エッセイ 地獄とのつきあい方
エッセイのご感想がありましたらフォームより送信ください。
〈エッセイ 著者リスト〉
各エッセイは筆者個人の意見であり、REDDYの見解とは必ずしも一致しません