人は家を考える時、何を重要と考えているだろうか。
「日当たりの良さ」、「地震に耐える強さ」、「暑さや寒さ」、「環境」、「デザイン性」・・・。
全て欠かせない事項であるが、そこにもう一つ、「ライフタイムー時間軸-」も追加するというのはどうだろう。
時間軸の追加とは、つまり、自分の身体に何かが起こってもそこでそれまで通り住み続けられるかどうかということである。
特に、若い夫婦が住宅を考える際、目の前にあるローンと子育てのことで精一杯で、そこに「住み続ける」という時間の概念が抜けていることが多い。
「何かがあった時には引っ越しをすれば良い」ということをよく聞く。そうあっさり割り切れるのであれば、そのようにされるので問題はないが、多くの人はそれまで過ごしていた家からそう易々と引っ越しは出来ない(したくない)ものである。 それまで築いた地域から離れるだけでなく、子どもの学校も変わらなくてはならないかもしれない。
身体の状態が家に合わないから引っ越すというのは、本来であれば、本末転倒である。身体の状態が合わないから住みたい所に住めないというのは、寂しすぎる。
身体の状態に合わせられる家であれば、それほど多くの変更なしにそれまでの延長で生活が続けられる。
例えば、プロのバンドに片足突っ込みながら大学でのプロジェクトで海外へも行くような大学生活を送っていた人が、ある日理由もわからぬ病で急に倒れてしまい、それ以降、車いすでの生活を余儀なくされた場合、彼はどのようにその先の生活を送るのか想像してみる。
建て売りの実家は玄関の敷居が高く、「よっこらしょ」というかけ声が必要になる。狭いトイレにはかろうじてトイレの横の壁をあけることが出来たので、2つの扉があるトイレにして横から介助を行う。大きくて立派な洗面台の足下には物入れがあるため、顔を突き出した無理な体勢で顔を洗わなくてはならない。浴室にはギリギリ入れるが、ギリギリの中自分が転ばないか心配してひやひやしながら介助を行う。廊下から部屋に入るのも車いすを回転しながら「よっこらしょ」と。ここで毎日の生活を行うのは難しい。
彼の場合は、仕事の関係で実家を離れ都心のマンションを借りることになった。自立である。大家さんの厚意で部屋の扉は全て取り払い、カーテンに付け替えた。三角の土地に建つ仕事場近くのマンションには、至る所に無駄な空間があり、幸いなことに車いすで生活をする彼にとっては介助者が入れるスペースとして役に立った。職場近くでそんな家はまずそこしかない。彼はとても運が良い。
彼には彼女が出来た。同じマンションの違う階にもうひとつワンルームの部屋を借りた。少し変わった形の同棲である。そして結婚となって二人が住める家を探した時、住みたいと考えたこの地域に住める家を見つけることは出来なかった。
自立した彼が一人暮らしで感じたことと、変わった同棲生活から学んだことは幾つかある。彼にとって住むための家に必要なことは、車いすでもスムーズに使える玄関や水回り、居室への入口と広さである。そして彼女にとって住むために必要なことは、彼の介助を楽に行えるスペースと動線、それから彼女のプライバシーの確保である。
(続く)
三角の土地に建つマンションでの生活
彼と彼女は一緒に住むことを考え、家を探すことを始めた。職場近くの賃貸マンションは、入り口に階段があったり、部屋の廊下やトイレが狭く、車いすを使う彼が住めるところはなかった。車いすでも住める部屋がある近くの公団も、何年先に空きが出るか分からないという。新築されたばかりの分譲住宅を見にいくものの、やはり入り口の階段や廊下の狭さ、水回りの不便さは変わらない。「エレベーターを設置していただいても構いません」などと不動産屋さんはいうが、そんなスペースは全くない。「車いすだとなかなか住むところもないものね」と二人は話す中、半年ほど過ぎた。
知り合いの不動産屋を介して、「近くに土地が出ているから見に行ってみて」という連絡が入った。「え?土地?」と二人は驚きながら、とりあえず見に行くこととした。今まで住んでいた場所からそれほど遠くないにもかかわらず、大通りから一本入った場所にあるその土地は、随分静かだった。今でもこの辺りは、通りから一本入ると静かで昔ながらの住宅が多くあることを初めて知った。
見学した土地の横は、昭和を思わせるようなトタンの塀で囲われた駐車場で、敷地の正面は雑草で覆われていた。旗竿地のその土地は、土地としては十分満足いくものであったが、二人は土地を購入することはまだ早いと考え、「車を駐車すると、車いすが通れない」など、色々とそこには住めない理由を付けて保留にした。「それならば」と、その前の道路に面した土地はどうかと不動産屋から連絡があった。この近辺で土地が出るのは珍しいので、住むことを考えているのならば押さえて置く方が良いとのことである。聞くと、最初の旗竿地と道路に面したこの土地は、昭和30年代から40年代にかけてこの近辺に多くあった大学の学生のための賄い付きの下宿屋の一つであったが、家主が亡くなり相続の関係で4つに分割されたものだという。そこの下宿屋には著名な文豪も下宿していたようだ。さすがにそうした下宿屋はもう大学近辺にはほとんどなくなってしまったが、かろうじてこの界隈には今も数軒ある。その中には大正ロマンの面影を残した建物などもあり、学生の街であったことを偲ばせる。なかなか素敵なところだった。
それまで元気だった人が突然、車いす生活になるような場合、自立についていろいろな考え方がある。例えば、事故に遭う前のように出来る限り一人ですべてを行うべきだという考えや、時間をかければできるとしても、介助を受けることでより容易に出来るのであればそれを選ぶことも選択肢の一つであるという考えなど。彼にとってマンションでの生活は、障害を負ってからの彼の自立生活に、いろいろな課題と方向を示していた。失った機能を補う物(=車いすを含む補助具やパソコン)、人(=ヘルパー)、場所(=家や職場)とどのように関わり、その関係を保つのか、これらは彼にとって重要な要素になる。それを自分でプログラムして、生活にうまく取り込むことによって、彼の身体的な大きな障害という問題は、小さな問題へと変わることを、ここで彼はうまく自分の中で消化しているように、彼女は感じていた。
個人の住宅は、バリアフリーについては法的規制の対象ではない。またコスト面などからみても、車いすでも住めるようにするという考え方はなかなか取り入れられない。それが彼と彼女が見た町の中の現実であった。「そんなものよね」と二人は話すが、なんだか少し寂しかった。二人は住宅について色々話し合った。高齢になったり障害を負ったりして、今まで住んでいたところに住めなくなったときは、住める場所に移ればよい、という考え方も間違いではない。しかし、家族構成が変わったので広いところから少し狭いところに移ろう、というのと比べて選べる住宅の幅が狭いという点で、両者の意味が違う。まして高齢者や障害を負った人が施設や障害者用の住居など特別な場所でないと住めないとなれば、住むことができる場所が極端に限られてしまうことになる。「そもそも、高齢者や障害者のみが集まって住むよりも、まちの中にいろいろな人が普通に住むことのほうが自然なんじゃない?」彼女は言う。
先日遊びに行った車いすを使う友人の家では、トイレの戸を開けたままでないと使えないと嘆いていた。車いすや介助の必要な人でも使えるトイレとなると、一般の住宅ではなかなかない。最近ではマンションやハウスメーカーなどでも高齢者配慮住宅として、大分配慮がされつつあるが、それでも広いトイレがあっても、前の廊下が狭くて曲がりづらく、使い勝手が悪い、というような話はよく耳にする。「一般的な住宅でも個々の状況に対応できるように配慮されているならば、住む側の選択肢が広がり、提供する側にとっては対象となる入居者=消費者の数は増えることになるのに」彼は言う。
もちろん、住宅だけでなく、まち、店、そして映画館や美術館、歴史的な施設などでも、そうした配慮をすることで、来場者を選ばないということが施設側の利益にもつながるはずだ。それは教育施設においても同じだ。誰もがどこにでも行けるという体験、誰もが同じように学べるという体験ができることは、社会の豊かさにもつながるはずだ。つまり、建築が長く使え、 誰でも使えることは、経済的にも有利に働くのにと二人は話す。
住宅が人を選ばない、つまり誰もが住める住宅は、さまざまな人が利用できるという点で、社会にとってもプラスになっていく。言ってみれば「社会資本としてのいえを考える」ということになる。社会資本としての住宅を考えることは二人の課題になった。実際には、色々、限界もある。何が一般化できて、何ができないか、どこまでそれぞれの状況に合わせていけるのか、そして住宅を設計する中で、健常者と障害者を隔てている境界はなんなのか。そんなテーマで二人は自分たちがまちに住むということを自分たちの事として考え始めた。
(続く)
小さな平行四辺形の土地
小さな土地は奥に長細い平行四辺形の形をしている。まず考えなくてはならないのは駐車と玄関アプローチの方法である。
車を停めた状態で車椅子を使う彼が横を通り抜けるためには、車のスペースに加えて車椅子の通路幅が必要になる。
そのうえ日本の住宅には基礎の高さ、わかりやすく言いかえれば「玄関」という問題があってこれが一番厄介なことになる。
車椅子での狭小敷地のアプローチは、こんな感じで悩ませられる。
駐車場の幅を大きめに取り、そこを通る間に玄関分の高さをスロープで解消することでこれらを一度に解決する。
車椅子で使うメインのフロアを二階にする
南側隣地ギリギリに建物が建つ可能性があるので、メインの生活フロアは二階にすることにした。メインフロアを二階にするということは、車椅子なのでエレベーターが必須になった。狭小住宅なので仕方がない。
階段のかたちとエレベーターの大きさから、二階への動線を考えながら、狭いところでその向きと位置を決めていく。車椅子で移動をすることを考えるとエレベーターは、アプローチからまっすぐに入れるのが理想である。
併せて、万が一、エレベーターが止まってしまっても、階段から下ろす車椅子避難の方法も考えないといけない。
二階のメインフロアは、彼が車椅子で生活する上で使うすべての機能を備えたい。日常、あらゆる場面で介助が必要な彼のような生活には、ヘルパーが毎日何度も出入りする。職場へ行くのも、ヘルパーや研究室の学生の手を借りなくてはならない。まずは車椅子の彼とヘルパーと、そして家人や訪問者の、それぞれが二階へ行く方法のパターンをエレベーターと階段の使い分けで整理する。
ヘルパーの存在は重要になる。ヘルパーが日常を支えてくれるということは、障害のある彼のような人にとって、自立した生活の本質の部分になるためである。家族がいてもいなくても、それは変わらない。そうして初めて、自立と言える。
その反面、ヘルパーに家に来てもらうことは、家族の生活にも少なからず影響がある。毎日のことなので、ヘルパーが来てくれている時でも家族が自分の時間を過ごせる環境は必要だ。出入りの動線の充実と部屋の切り離しが大切になる。
二階へ行くために、①彼の車椅子を使った動線、②ヘルパーの動線、③家人や訪問者の動線。それぞれの出入りを考えて、いくつかパターンを作ってみた。
[①彼の車椅子を使った動線]は一階で敷地を縦にまっすぐ縦断して、一階玄関を開けたところの一番奥のエレベータで垂直に上がり、二階に出たら今度はまっすぐ逆に引き返して、また端まで縦断して戻る、というのを基本とした(図1)。
彼と一緒の出入りは一階から行う。ヘルパーが一人で出入りする場合は、二階の部屋に直接出入りするということになる。こうすることで、彼が一人で二階にいたとしても、訪問者の様子を把握できる。さらに、彼の送迎の際の一連の動線も無駄がない(図2)。
必要なことを並べただけだが、これでだいたい、この小さな平行四辺形の土地に建つ家のヴォリュームと骨格が決まった。
車椅子で使う水回りを考える
帰宅するとまず、そのまま洗面台に行って手を洗う。まずはその洗面所の位置を決める。二階に上がってエレベーターを降り、同行者はそこで靴を脱ぐ。そして車椅子のタイヤの汚れを拭いてそのまま洗面台に向かえると良い。洗面所までなるべく単純に移動ができて、すっと入れる洗面台がいい。
洗面台はもちろん、彼が車椅子に乗ったまま使えるようにカウンター下が空いていなくてはならない。下に空きのあるカウンターで、幅が合うような気に入ったデザインのものがなかったので、車いす用に設計して、鉄工所で頼んで、ステンレスでオリジナルのカウンターをつくってもらうことにした。
洗面は風呂場と並べて、風呂場はトイレと並べる必要がある。そしてベッドはその水回り近くに置く必要がある。これは入浴やトイレに介助が必要な彼のような場合には特に重要なことで、ベッドからトイレ、そして風呂場へと車椅子で楽に移動できることは、ヘルパーも彼も身体的な負担を減らすことに繋がる。
玄関と洗面所、ベッドと洗面・風呂・トイレはそれぞれ関係づけて彼の動きを中心にして動線を考えていった。
大まかな動線を決めたら、今度はその中身、洗面・風呂・トイレの車椅子での使い勝手も踏まえた配置を、限られたスペースの中で試行錯誤して決めていく。
問題はトイレからシャワーへの車椅子の移動だから、その間は壁でなくて扉にできればいい。
扉の移動で、洗面トイレシャワーを一体にしたり、トイレだけを分けたり、状況によって切り替えられる方法を考える(図3)。
シャワーを車椅子で使うときは、シャワーヘッドは少し低めに留められるようにし、カランは逆に高めにして、車椅子から手が届くようにする。
車椅子ではトイレからシャワー室に入る向きも決まっている。
これで、彼が車椅子で使う水回りの機能が揃った。
車椅子でも使いやすい家
外出することよりも家で過ごすことが多いので、二階南面はガラスの引き戸で、できるだけ前面を開口に、明るい部屋にする。出入り用の開き戸一枚もガラスにして、上がってきた人が室内から見えるようにする。
こうして徹底的に車いすでの自分の生活のスタイルに合わせた家を設計した。
それによって彼のような車椅子を使うような重い障害があってもストレスなく生活ができるようになった。ヘルパーが無理なく介助ができることは彼にとっては一番重要なことである。そして彼女の最低限のプライバシーの確保も重要なことである。
あらゆる家は、本来どんな人でも受け入れる必要がある。でも日本の住宅事情で、車椅子が入れる家をあたりまえにするのは困難極まる。
誰しも自分の家を考えてみて、少しでもそういうことを思いうかべてみるのも悪いことではないだろう。
例えば、狭い住宅でアプローチを確保することは難しい。が、玄関前に階段があったり、玄関に段差があったりしても、実はちょっとした技と手助けがあれば、意外と車椅子でも入れるものなので、それは、それぞれの場合、そのときどきの必要で考えてもらえれば、実際はそれでもいい。
自分の身の回りについても一度、ちょっとだけでもそんな状況を考えてみてもらうことが、一番良い。
自分のスタイルに合わせた家の設計により、二人はさらに、少しの工夫で車椅子を使っている人にとっても使いやすい家ができるのではないかと、確信ができた。
様々な人が「地域に住む」ために、住宅にちょっとした工夫をすれば、車椅子になっても(もちろん、そうでなくても)、住み続けられる家を作ることができる。そういう家があることは、そこで「住む」、より多くの人の選択肢が広がる。つまり、多様な人が地域に生活するための拠点が出来るのである。
こうした考え方は、既にイギリスではライフタイムホームズとして実践されている。
(続く)
"Lifetime Homes" は、 障害者の住宅を考える当事者団体Habintegによって作成されたイギリスの住宅設計基準です。Habintegでは、車椅子使用者用の住宅のガイドブック "Wheelchair
Housing Design Guide" を出版していますが、 一般のすべての住宅においても、車いすが必要になっても住めるように考えられたのが "Lifetime Homes" で、そのガイドラインとして
"Lifetime Homes Design Guide" も出版しています。
概要は公開されていますのでご興味のある方はご覧下さい。
http://www.lifetimehomes.org.uk/pages/quick-print-version-revised-criteria.html
"Lifetime Homes" は1994年につくりだされ、環境基準に取り入れられたり、ロンドンなどの一部の都市において義務化されるなどして、今は Building Regulations(日本でいう建築基準法)にほぼ同じ内容が盛り込まれるまでに至っています。"Lifetime Homes" は、必要な時に調整が可能である可変な項目を予め設計基準としてあげておき(adaptable・adjustable)、直ぐに必要ではない広さや設備は含んでいません。これにより、一般的な住宅としても使いやすいものとなるという考え方になっています。現在、ロンドンでの再開発など新築の場合、10%は最初から車椅子使用者でも住めるようにする車椅子使用者用の住宅にしなくてはならず、それ以外は全て、はじめは一般的な住宅として使用するものの、簡単な改修によって車椅子使用者でも住めるようになる住宅—"Lifetime Homes" にしなくてはなりません。
The Building Regularions - Access to and use of buildings APPROVED DOCUMENT M より
Diagram 3.12 Example of wheelchair adaptable WC/cloakroom layout with potential to be wheelchair
accessible
車いすで使用できるように対応したトイレの配置例(平面図)
左 Wheelchair adaptable WC cloakroom
車いす対応可能なトイレ(必要に応じて容易に車いす使用可能に変更できる)
右 Wheelchair accessible WC cloakroom
車いす使用可能なトイレ
註
1.寸法は参考です。
2.ドアは外開きでなくてはなりません。車いす対応可能にする際は内開きでも、容易に外開きに変更できるように。
3.配管や排水は車いすで使用する範囲から離すこと。
"Lifetime Homes" は、「身障者や高齢者が抱えている障害を住宅によって解消する」という考え方、つまり、社会モデルとして障害を捉えているものです。日本でも2014年障害者権利条約の批准以降、障害を社会モデルとして考えることは多くなってきましたが、まだまだ一般の人からの理解は十分ではなく、住宅などにも障害の社会モデルという考え方は及んでいないのが現状です。
高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称バリアフリー法)では、共同住宅は円滑化基準遵守の対象ではなく(努力義務)、法のガイドラインとなる設計標準に規定はあるものの、これらはあくまでも共用部分のみの規定で、各住戸の規定などは特にありません。つまり、共同住宅では車椅子使用者などは各住戸玄関までは行けたとしても、その住戸で生活出来るかということはまた別になります。例えば、住宅性能評価・表示協会により、高齢者等配慮対策等級1〜5を設けていますが、等級3(「高齢者等が安全に移動するための基本的な措置が講じられており、介助用車いす使用者が基本的な生活行為を行うための基本的な措置が講じられている」)が全体の20%〜25%程度(一戸建て、共同住宅等)で、殆どが等級1(「住戸内において、建築基準法に定める移動時の安全性を確保する措置が講じられている」)にとどまっているように、まだまだ個人住宅において住宅が高齢者や障害者などになっても住み続けられるものという考えは一般的ではないというのが現状だということが分かります。
こうした日本の現状に対して、イギリスではどのようにして、"Lifetime Homes" という考え方が Regulation に取り入れられていったのかを知ることを目的に、2018年に、イギリスのライフタイムホームズ作成の中心となった住宅協会 Habinteg を訪れました。協会のコミュニケーション長クリスティーナさんとその教育機関であるアクセシブル・エンバイラメント・センターのアクセスアドバイザー・ジャッキーさんに、ライフタイム・ホームズ設計基準をつくるきっかけとなった社会背景や、関連団体との連携、その後の英国政府の建築基準見直しへの影響、普及促進の状況や現在の住宅状況などをインタビューし、日本での展開の方法の見解などを伺ってきました。そこでは、デザイナーやコンサルタント会社などを対象に定期的に "Lifetime Homes"、"Wheelchair Housing" の技術的な実務を教える講習会を開いており、受講者には修了証が発行されます。私も"Wheelchair Housing" の講習会に参加させていただきました。
Habinteg主催 "Wheelchair Housing" 講習会風景
スライドを使って参加者全体で考える授業
スライドの授業の後には個人の課題が出る
レゴブロックなどを使用して、キッチンなどをどのように収めるかサイズ感を把握する
イギリスでは、planning application(建築確認)申請にはアクセスプランを提出しなくてはなりません。ある程度大きな規模のプロジェクトにおいては、アクセシビリティを専門とするアクセスコンサルタントが建築家と同列で契約され、設計チームの一部となって、住宅はもちろん、屋外を含めた建築計画全体の動線計画など Regulation に関連した法律関連のアドバイスを行っています。アクセスコンサルタントはイギリスにおいては、職能として成り立っており、当事者が中心となっている場合もあります。日本ではまだまだ設計段階で当事者主体のコンサルが関わるというのは難しくなっていますが、今後日本でもこうしたシステムを作っていくことは重要では無いでしょうか。
昨年は、こうした "Lifetime Homes" の考え方に即した住宅を数件やらせて頂きましたが、こうした住宅の普及も今後ますます必要になると考えています。
『体験的ライフタイム・ホームズ論 車いすから考える住まいづくり』彰国社
丹羽太一・丹羽菜生・園田眞理子・熊谷晋一郎・小竿顕子ライフタイム・ホームズ・アソシエーション http://www.lifetimehomes.jp/
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