REDDY 多様性の経済学 Research on Economy, Disability and DiversitY

メンバーの研究

2022年04月

森壮也

日本貿易振興機構アジア経済研究所(JETRO-IDE)新領域研究センター 研究員 [開発経済学]

研究テーマ
 開発経済学(「障害と開発」、主たるフィールドは、フィリピン、インド、ケニアですが、現在、「中東地域の『障害と開発」にも取り組んでいます)
 手話言語学(日本手話、アメリカ手話、フィリピン手話、ケニア手話の音韻論と統語論)

その研究を始めた理由、きっかけ
 研究所では、1990年代までアジア地域の多国籍企業の展開や各国の地場企業との結びつきといった産業組織論的研究をしていました。その後、開発専門家と障害当事者団体の間での対話を目にする機会があり、両者の間をつないでいきたいと「障害と開発」分野に乗り出しました。
 開発というのは、ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・センによれば、「人々が享受するさまざまの本質的自由を増大させるプロセス」(セン『自由と経済開発』石塚訳、日本経済新聞社、2000年、p.1)とのこと。障害当事者もそうした開発のプロセスにプレーヤーとして参加していけること、これは開発にとっても大事な課題です。それに少しでも当事者開発研究者として寄与したいと思っています。

今までの活動・研究について
 これまで「障害と開発」の概論(『障害と開発』アジア経済研究所研究双書No.567、2008年)、途上国における障害統計(『途上国障害者の貧困削減-かれらはどう生計を営んでいるのか』岩波書店、2010年、国際開発学会特別賞受賞)、南アジア地区における障害当事者の運動と政策(『南アジアの障害者当事者と障害者政策 —障害と開発の観点から』アジ研選書No.27、2011年)、フィリピンの障害者生計調査(『障害と開発の実証分析―社会モデルの観点から (開発経済学の挑戦)』勁草書房、2013年、国際開発大来賞受賞)、これらの英語版("Poverty Reduction of the Disabled Livelihood of persons with disabilities in the Philippines", Routledge, 2014年)、アフリカの障害当事者と政策(『アフリカの「障害と開発」—SDGsに向けて—』アジア経済研究所研究双書No.622,2016年)、障害女性と障害児の統計分析(『途上国の障害女性・障害児の貧困削減――数的データによる確認と実証』アジア経済研究所研究双書No.636、2018年)を継続して世に問うてきております。
 現在は、中東地域における「障害と開発」に取り組んでいる他、上記の著作と並行して行って来た法制度(研究所同僚の小林が主催する研究会)の研究も行っています。
 研究は主として国際開発学会などで報告してきているほか、国連NY本部、ESCAPなどでも発表の機会を頂いています。また職場のジェトロ・アジア経済研究所では毎年、夏期公開講座というのを開いており、そうした場でREDDYの前身のREADSでのように一般の聴衆の方向けの研究成果のお話もしてきております。

最近気になっている問題、または印象深かった出来事など
 2017年夏から2018年夏まで、アメリカ合衆国カリフォルニア大学バークリー校にて客員研究員として1年間、研究に没頭できる環境を与えて頂きました。米国の障害学の最先端の研究にも触れ、日本ではまだあまり顕在的ではない人種や性といった問題と障害とが交差する領域についても多くの学術的、また実生活上の経験をすることができました。女性障害者の問題などは、研究でも取り上げて来ていますが、社会的慣習といった障害全般と関わる領域が増幅される形で、障害者の中のマイノリティに作用する仕組みをスキームとデータの双方で、もう少し社会科学的に明らかにできればと思っています。松井先生の新しいゲーム理論の枠組みもそうした研究に少しでも応用できればと思っています。

その他、メッセージなど
 日本手話話者ですが、通訳を介してでも、直接でも、いろんな方と気楽に色々なお話をしたいといつも思っています。REDDYの会場等で見かけたら、いつでも声をかけて頂けたらと思います。

森壮也 エッセイ「言語の多様性」