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出張見学レポート

2023年10月4日

出張見学レポート

大関智也

実験室、研究室のバリアフリー化について

駒場の東大先端科学技術研究センター(先端研)にある、並木研究室を見学してきました。
この研究室は「インクルーシブデザインラボラトリー」という、車いすユーザーなどの障害を持った人にも使いやすい理工系の研究室、実験室を構築する研究を行っています。
この研究室の研究テーマや並木重宏准教授についてはすでに説明されているwebページがありますのでそちらを参照していただければと思います。

研究室紹介 フロントランナー 011:並木重宏准教授
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/frontrunner_namiki.html

今回、こちらで整備中の「障害のある理工系の学生や研究者でも、自由に実験に取り組める環境『インクルーシブラボ』」を見せていただきました。

車いすユーザーに限ったことではありませんが、障害を持つ学生が理工系の大学で、特に科学実験を伴う分野で学ぶことは容易ではありません。私は大学の化学科出身で様々な科学実験を行う研究生活をしていましたが車いす生活になったのは大学院博士課程修了後ですし、障害認定を受けた時(当時は3級で杖を使って歩いていた)にはすべての実験を終えて学位論文を書いておりました。大学入学から大学院修了までの12年間で車いすに乗った学生を見たことは一度もありませんでした。
そういうことで、車いすに乗りながら大学の研究室で(特に実験を伴いながら)研究活動をするということは容易ではありません。私が大学で研究をしていた20~25年前にはそれだけの設備はありませんでしたし、周囲の人たちもそのようなことを考えることはなかったでしょう。

さて、大学の研究室に車いすで実際に入ってみるとすぐに問題に直面します。まず通路が狭いのです。直進してUターンはできず、曲がれるところも限られるぐらい狭いです。私は卒業研究を大学ではなく理化学研究所に派遣されていた(余談ですが、理化学研究所は国内屈指の研究所で研究環境は非常に良いのですが地理的な理由で多くの学生に敬遠され、当時は成績の悪い学生が”飛ばされる”所でした。その数年後、他大、特に東大の大学院志望者に注目されるようになり、人気が出て成績の良い学生が行くところになりました。)のですが、そこでは車いすですれ違えるほどの広さがありました。その後大学でも事故や災害時の避難経路確保のために少々通路を広くしたのですが、それでもUターンできるほどの幅はありません。
次の問題として、これは普段車いすを使うことのない人にもイメージしやすいと思いますが、いすに座ったままの状態では高いところにあるものが取れない、奥にあるものに手が届かないのです。
また別の問題として、実験室では様々な薬剤を扱うことになるのですが、車いすの部品、特にタイヤ部分が薬剤で腐食されないかという懸念があります。もちろん研究室にいる人たちはある程度実験操作などに慣れているため薬剤を大量に浴びるような事故は普通起こさないのですが、うっかりビンを倒してこぼすようなことはあります。こういう時に車いすでは瞬時に動けないことが問題になります。なお、万一薬剤を大量に浴びてしまった場合には非常用シャワーを使うのですが、車いすユーザーでも使いやすいようにレバーの位置を低く持ちやすくしているものがありました。

赤で囲ったリング状の部分をつかんで引くとサイレンが鳴り、一定時間大量の水が出続けます。緑で囲った部分から出た水で全身を洗い、青で囲った部分から出た水で目を洗います。

次の写真は薬品棚ですが、電動コントローラで上下させることができ、高いところにあるものを取り出すことができます。扉は取っ手をつかむことで弱い力でも開閉(閉める際は扉をわずかに上げれば自動で閉まります)できますが、奥行きがかなりあるため中の薬瓶を正面から取り出すのは少々手間がかかり横に回り込む必要があります。私には少し使いづらいと感じました。

次の写真は流し台です。
赤丸で囲った部分にスイッチがあり、流し台が上下に動き高さを調節できます。また、蛇口部分にセンサーがあり手を近づけるだけで水を出したり止めたりすることができます。
このような蛇口はキッチンや洗面台では見かけることがありますが、実験室の流し台では珍しいと思います。

あとは別角度から撮った流し台の写真ですが、この流し台にはふちの部分に「かえし」がついていて、足腰の弱い人でもこの部分を頼りに立ち上がって作業することができます。

そのほかには実験室を見渡せるVR装置がありましたが操作がよくわからず、いつの間にか部屋の外に出てしまいました。
また、強制排気機能付きの実験台もありましたが、これは実験台の前にいすを置いて座って利用することがあるため特別な装置はありませんでした。

現在大学等の本格的な研究室、実験室で使われている例はほぼないそうですが、特別支援学校の理科室として試験的に運用されているとのことです。これから先、障害のある人にも実験研究ができるような環境が整備されることを願います。